〈『異聞』公開記念〉姉妹対談・物語の裏を暴き立てる!①

佳子:やれやれ。頭のねじが抜けてしまった(脳梗塞後遺症+認知症)オヤジがとうとう帰宅したわけですが、セルシンが功を奏したようで今夜も寝付いてくれました。

了子::いよいよ在宅介護再スタートということで、私も一応、今週末は実家に戻って参りました。でも、予想していた以上に状態は良好だよね?

佳子:うん。でも・・・今朝はいまいち日本語が通じていなかったけど

了子:尿漏れして汚れた服を取り替えようとしたけど、なぜか裸のままベッドに入っちゃった。それでも、連れ戻したときに叩かれないだけマシだよね。

佳子:そうそう。以前はすぐに殴られた。夜間にしっかり寝てくれるなら、私も仕事を本格的に再開できるんだけど。順調にいくかな?

了子:さてさて、本題に入りましょう♪ 大変長い時間がかかりましたがどうにか『異聞』の公開にこぎ着けました。佳子には〈大きな〉恩を売りつけましたので、また×3対談に引っ張り出してきました。今回は徹底的に『異聞』の内容を追及したいと思います!

佳子:ええい!しかたがねえ! 論文にしても作品にしても発表したからにはもう「まな板の上の鯉」なので、批判もお叱りも受けて立ちますわ(やけくそ)!

了子:一番文句を言いたいのは、伏線というか謎は作品内で回収なり解明なりしてよ!

佳子:いや、謎は謎のままにしておくからこそ意味のあるものだって。これ、推理小説じゃないもん。世阿弥先生も「秘すれば花」って言ってるし!!

了子:そんなあ~!!! この作品、気になることが全部尻切れとんぼで終わってるじゃん!!!

佳子:それ言うなら『ダイ大』だって、「主人公はどこへ行っているのよ!!!?」で終わっちゃったじゃん。

了子:でも、あっちは主人公が何者かは判明しているじゃん。アデーレって結局何者なのか分からないし、そもそも「魔女」とはどんな存在なのかも分からない。

佳子:だから、お化け屋敷でおどかし役の「お化け」を捕まえて身ぐるみ剥いだら、もうそれは「お化け」じゃなくなるじゃん。それと同じよ。正体を明らかにしたら、物語が物語ではなくなるんだって。

了子:なんだか究極のヘリクツって感じにしか聞こえないんだけど?

佳子:う~ん。正体を明らかにするとしたら、それはまた別の物語ということになる。

了子:えっ、考えているわけ?

佳子:一応、アイディアとしてはあった。もう書くつもりはないけれど。

了子:佳子ってそんなんばっかりだよね。養父の大ガルシアの出生についてもしっかり年表上には書き込まれているのに、『異聞』の中ではおくびにも出さない。

佳子:パワーバランスの関係で、長らく奇跡的に戦乱に巻き込まれなかった草原地帯の男の子(リェイジュン)が語り手だからね。彼らには「しゃべる龍」と接触した経験もないから、龍人や龍たちの戦争なんて遠い世界の出来事でしかないし、知識としてもそれほどない。

了子:養父の大ガルシアにしても、その母親にしても龍人の生き残りとは密接に絡んでいる設定じゃん。もう少し作品中で触れようと思わなかったの?

佳子『異聞』を書き始めた頃はそういう設定まで考えていなかったんだよね(けっこういい加減)。「しゃべる龍」と龍人の話を考え出したのは、イルファレンに到着したぐらいからかな。

了子:ええ~!!? 白い龍が顔を出しているから、てっきりあの頃から決まっていたのかと・・・。あれ、初めから考えていた設定じゃないんだ。

佳子:うん。魔女についての伝説が延長拡大する形で、龍人を登場させようと思った。

了子:えっ? つまりメリュジーヌとかそういうものを考えていたってこと?

佳子:いや、初めは龍に仕える巫女として考えていた。それが龍と人間の間に生まれた存在を登場させようかって思うようになった。ギリシャ神話のギガンテスって、龍と巨人の混血みたいな存在として捉えられていたみたいなのよ。だからギガントマキアの記憶が龍人差別へ直結しているって設定にできると思った。

了子:へ~。でも、ずいぶんとまた飛躍したよね。それがそういう方向に行きますか。

佳子:考えているうちにどんどん変わっちゃうってよくある。だから、後から加わった部分を差し置いて、とにかく元から決まっていた部分を書こうとして書いたのが『異聞』なわけ。

了子:それは私もよくある。だからあの作品はちょっと抑制的なんだ。風呂敷を広げているように見せかけて全然広げていないような。結局龍たちが使っていた象形文字も解読されないし。

佳子:そう。今後いかようにも広げていけるように、わざとどのようにも解釈できるようにしてある。だから姉貴がクロスオーバーするのに書きやすいって評価してくれた時は、してやったりな気分だった。

(つづく)