どうも解せないよなあと私が思っていることの中では1、2を争うと言ってもいいほど謎なのがこれ。どう考えても、「龍の騎士は人間の味方でなければならない」なんて決まってませんよね?
これに関してはバラン本人が語るところとラーハルトの説明に若干の違いがある。たぶん、三種族のバランスを保つということや、地上は基本的に人間の生活空間とするという神々の方針に従うなら、結果的に人間の味方をすることになるってだけではないだろうか。つまり、状況次第では人間を殺すことだって使命のうちに入るってことなんじゃないのか。
バランの説明を引用してみよう。
ゆえにいずれかの種族が
時として野心を抱き
世界を我が物にせんとしたら・・・
それを滅ぼし
天罰を与えるのが
竜の騎士の使命なのだ!!
『DRAGON QUEST ダイの大冒険』第6巻(集英社文庫版、2003年)P131
この説明が真実なら、別に人間の味方をする必要なんてないでしょう。人間の生活空間としての地上の平和を守ろうと思って人知れずヴェルザーと戦ったわけだけど、(知らないとはいえ)結果的に人間は恩を仇で返してしまった。とはいえ、おそらくそれだけではバランの堪忍袋の緒は切れなかったに違いない。
自らの使命を果たして結果的に人間を守っても、それが感謝されることはないと重々承知していたと思う。間違いなく彼が人間に対して怒り、人間を見限るきっかけになったのは、ソアラの死と事実上のディーノの死だったはずだ。だってさ、命と引き替えにしてまで守ろうとした存在が、よりにもよって同族に殺されてしまうなんてたまらないよ。その上、「恥さらし」とまで言われちゃうんだからねえ。
たぶんディーノがバランの手元に戻ったのなら、あそこまで人間に敵対なんかしなかったのではないか。だって愛した人間の女性との間に生まれた唯一の子で、半分は人間の血が流れているんだから。もしシングルファザーとして生きたとしたら、人間とは距離を置いてディーノを育てていったのだろうけど。おそらくバランが「ディーノとともに 人間を滅ぼすことのみが 私のたったひとつの望み! 生きる支えなのだ!!」とまで考えるようになるには、この後もう少し何らかの事件があったのではないかと思う。
まあ、一方で王様(ソアラの父)の立場も分からなくはない。一国の王女として、魔族(魔物)と通じたということが公になれば非常にまずい事態だ。たとえばどこかの国が王女を大魔王バーンに嫁がせたとなれば、それを理由に外国から攻撃対象と認識される公算は大きい。人間の敵対者である存在と通じた。おそらくそいつはその国を足がかりに地上を侵略するつもりでいる。普通の感覚なら、そう判断してしまうに違いない。
あそこでバランが処刑されたなら、事態は穏便に済んだ。バランは自分の正体を隠して王女に近づき、王女をさらって子どもを産ませた。バランを捕らえて王女を無事に救い出したので、バランは処刑して子どもは国外に追放した。よって王女はバランにだまされた被害者であり、彼女に罪はない。そう押し通して王女としての身分と生活だけは守ることができる。たとえ廃嫡の上で幽閉されることになったとしても。
そんな筋書きができていたのに、ソアラがバランをかばうことによってすべて台無しになってしまった。魔物に誘惑されていいようにあしらわれた上に、心底惚れ込んでしまっているバカな王女だと公衆の面前で明らかになってしまった。王様が「おろか者め」と罵倒せざるを得なかったのは、そんな「国家の論理」と「(見当違いではあっても)親としての気遣い」を完全に無視したことに対する怒りからだったのではないか。王族として相応しい振る舞いからの完全なる逸脱行為に、王として親として立場上一言叱っておかなくてはならないということだったのではないか。
閑話休題。話を元に戻すと、龍の騎士としては人間を殺したとしても罪には問われない。三種族のバランスを自ら崩すような行為に出たということは問題になったとしても。だから他サイトさんのSSで見かけるバラン生存エンドで、しばしばバランの罪に対する言及があることに違和感を覚える。彼の場合、(人道上の罪云々は別として)戦時に敵国の兵士を殺害しても罪に問われないのと似た扱いをされるべきではないかと。だってそれが仕事(使命)なんだから。
了子