相変わらず私の胃は「腹へった!」と主張し、腸の方は「受け入れ拒否!」と主張していてお腹の調子が悪いのですが、ずいぶんご無沙汰になってしまったのでいい加減連載を再開しましょう。
当「ダイ大の謎」シリーズの中でも個人的には3本の指に入るぐらいの謎。ダイ大の謎というよりむしろソアラの謎なんですが、ソアラは一体全体バランのどこに惚れたんでしょう? 初対面でのバランはどこの馬とも知れない行き倒れの戦士ですよ!? 一国の元首として、自分の領内に氏素性の知れぬ行き倒れの戦士がいたら、とりあえず連行して尋問→怪しければ投獄という流れになると思うんです。
日本は島国だから、現代ではああいう事態が起こりにくいですが、ヨーロッパなんかではテロリストの嫌疑を掛けられそう。負傷していて意識がなく、武器や弾薬を持っていて身元も国籍も不明となると間違いなく警戒されるでしょう。警察機関の監視対象者リストに登録される可能性は高いでしょうし、しばらくは素行を調査されることも考えられます。
そう考えると、王位継承者であるソアラはみだりにそんな男に近づくべきではない。国の中枢部としては、どこかの国が派遣してきた間者とか暗殺者とかの可能性がないかを調査させるに違いない訳です。まあ、あんないかにも戦士ですってタイプの間者なんてそうそういないでしょうが。あの奇跡の泉での出会いのシーンから考えると、ソアラは単にモンスターか何かに襲われて重傷を負った自国領民の1人ぐらいなつもりでバランを助けたんでしょう。
でも、その後2人が親密に付き合うまでにはかなりのハードルがある。本人の自己申告以外に氏素性を裏付けるものがなく、住所不定の旅人となれば、たとえソアラが望んでもそう簡単に接触の機会はないはず。そのハードルを乗り越えさせるような第三者の介入があったと考える方が何となく妥当なように個人的には思うのだけれど(私はソアラは王位継承者として帝王学を学んでいたと想定しているし、個人的な恋心だけでバランと深い関係になったとは考えていない)・・・ハードルが高すぎたが故に恋心が燃え上がってしまった可能性も否定できないとは思う。ラーハルトの語りだけでは、どういう経緯でバランが王宮に受け入れられたのか、後ろ盾になった人間がいたのか詳細が分からない。
だから、当時子どもだった読者が読み返すと、バランとソアラは世の中の道理をわきまえずに突っ走って自滅した悲劇のヒーロー(ヒロイン)ぶっている痛いカップルに読めてしまう。非常に残酷な言い方だけど。バランはソアラと駆け落ちしたことを後悔はしていないでしょうけど、非は全面的に自分にあると認めている。だからわざと無抵抗状態で人間に捕まっている訳で、おそらく自分が処刑されかかったことでは人間を恨んではいない。あんな魔法攻撃、龍闘気さえ使えばぬるま湯を掛けられるレベルにしか感じないはず。
閑話休題。ソアラが一体バランのどこに惚れたのかという解きようのない謎に戻りましょう(笑) 可能性の1つとして考えられるのは、アルキード王国の姫君ではなく、一女性として自分を見てくれている存在だったからなのではないか。少なくとも、ソアラ本人はそう判断したんじゃないか。地位と財産目当ての男ばかりに囲まれていれば、掃き溜めに鶴って感じでしょう。ダイとレオナの関係を見ていても、姫ではなく友達として接してくれている――つまり地位や身分にとらわれない対等な関係が結べていることがレオナにとって重要なポイントになっているみたいですしね。
(実際問題としては、ソアラの選択は全くもって王族失格ですけど。夫にすることで国内統治を盤石にできる人物と結婚するのがセオリーですから。結婚という個人的行為も政務のために捧げるのが王族の務めです。バランが追放されたらさっさと有力貴族辺りとの婚儀に臨まなければなりません。レオナがもしダイを夫とする場合も問題は山積ですよ。アルキード王国の血を引く貴種でも、半分は人間ではない訳で。あわよくば王家と縁組みしようと目論んでいた国内有力貴族からの反発は必至でしょう。)
レオナの場合はまだ年齢が若いから、婚約者候補の選定段階には至っていなかったかもしれない。でも、ソアラの場合ダイ出産時に19歳だった訳で、とっくに婚約者候補が数名に絞られていたと思うんですよ。傍系の王族(従兄弟)か有力貴族の同年代の男性となると、そんなに数が多いとも思えませんしね。そうなってくると複数の婚約者候補が、アルキード王国の王配となるべく、自分の元にすり寄ってくる訳です。でも、彼らは「王配」の地位が欲しいだけで別にソアラ本人を愛している訳ではない。
義務として結婚して世継ぎを生むけれど、決して幸せではない結婚生活がまもなく始まる。でも体面上はよき妻として幸せな家庭を築いているように振る舞わなければならない。かなりの苦行です。ノブレス・オブリージュ、高貴なるものの義務といわれても・・・。それともう一つ引っかかるのが、王妃つまりソアラの母が登場しないこと。女性王族として結婚後にどういう振る舞いをするべきか、結婚生活の利点と難点がどこにあるのかを学べる対象が身近にいなかったのかも。周囲に勝手にお膳立てされた結婚でも、努力次第ではそこそこ幸せな生活が送れると分かっていれば、有力貴族の子弟を夫として無難な結婚生活を送ったかも知れません。
なにはともあれ、「もう少し上手くやりなさいよ」とあの2人にはツッコミを入れておきたい。
了子