了子:バランのことってヒュンケル視点で勝手に解釈されているけど、大外れの可能性もあると思うんだよね。
佳子:分かる。文学理論でいう「信頼できない語り手」ってやつだよ。物語は誰が語るかによって同じことを対象にしていても意味が変わってしまう。語り手次第だもの。某推理小説の犯人が語り手だったというのがその典型。
了子:バランは饒舌じゃない。基本的に本当に重要なことは語っていない。ダイの見る幻はダイ自身の願望の反映もあるから、やっぱり信用できない。そんな彼の内面を完全に理解できる存在はいない。同じ立場の存在は他にいないんだから。
佳子:うん。だからヒュンケルがバランにお節介を焼くのは、バラン側からしたらいい迷惑のはず。ヒュンケルがそうまでしてバランにちょっかいを出すのは、ヒュンケルがバランに自己を投影しているせいだと思う。
了子:ああ、確かに。そもそもあの2人の関係は変だと思う。何で自分よりも長く生きている人外の存在にあそこまで上から目線でものが言えるんだろうって不思議に思っていた。自分がハタチぐらいだったとして、一回り上の人にあんな口きける?
佳子:いや、たとえ同僚の平社員同士でも無理だって。そういうところからして私はヒュンケルを受け付けない。レオナにはぺこぺこして敬語使っていたじゃん。
了子:そんなに敬語まみれでもなかったような・・・。でも佳子に言われて何となく腑に落ちた気がする。「人間の最も美しい部分と最もみにくい部分を同時に見てしまった」のはむしろヒュンケルだったんじゃないか。
佳子:そうそう。だからその矛盾に耐えきれず、アバンを自分の目の前から消してしまおうと思った。父の仇であるアバンを恨み続ける一方で、そのアバンを慕うようになっていった。そんな矛盾する自分も許せなくなった。でもバランの場合は・・・。
了子:違うと思う。ヒュンケルの勝手な解釈というかあくまで一面的な解釈でしかないと思う。もっと彼には言語化さえできないような深い感情がありそうな気がする。恨み・怒り・悲しみ・愛情など様々なものがごちゃ混ぜになって澱のように蓄積している。
佳子:自分の感情だけでなく、辛い体験とかショックを受けた状況とかを話せるようになっているなら、いずれそれは解消できる。でも、言語化できなかったりそもそも自覚や記憶がなかったりするとそれは表出されずに沈殿し続けてしまう。バランの場合、それらを押さえつけることでそもそもなかったことにしようとしている。でも、結果的に表出の機会をなくした感情は本人に復讐してしまう。
了子:文字どおり自分で自分を殺してしまう結果になったわけだ。何だか救いようがないな、龍の騎士って。
佳子:そもそも救われることが目的で地上に派遣されていないしね。人間の心を持たされたのに戦い続けることが使命である時点で無理ゲーでしょ。むしろ人間の心なんてない方が職務遂行には楽だと思うよ。
了子:それは・・・「それを言っちゃあ、おしまいだよ!」(虎次郎モード)そもそも人の心を持ち合わせていなかったらソアラとの恋愛もないし、ダイを爆発からかばわなかったし。
佳子:だから人の心を持ったが故に、使命の続行が難しくなっていると見るべきなんじゃないかな。人間の女に惚れ込まなければあんな事件は起きなかったし。あそこでダイをかばっちゃうのは、騎士としては失格でしょう。
了子:だめだ。佳子に付き合っていると物語が物語にならないじゃん(笑)主人公が誕生しないって。
佳子:まあ、そうなんだけどさ。バランの場合、騎士としての立場で言えば人間を殺害したことは罪ではないと思う。全権を神からゆだねられている存在なんでしょうから。むしろダイをかばって落命し、バーンという三界のバランスを崩すものを殺害できなかったことの方が職務不履行の扱いでしょう。
了子:うわあ、危険思想ここに極まれり! 確かに人間に味方する義務はないし、戦争中にある国の兵士が敵国の兵士を戦闘で殺害するのと似た扱いだとは思うけどさ。自分が死んでも息子がいるって思ったからこそできる選択だから。そういう選択ができるのも、彼が子持ちの騎士という例外的な存在だから。
佳子:いずれにしても、騎士としての使命を全うするなら、ポップ一行の存在は切り捨てるべきだった。あるいはもっと早い段階で竜魔人化しておくべきだったと思う。さっさとハドラーの体から黒のコアを抜き取ってさ、ルーラで上空に飛んで爆発させちゃうとか、やりようはあったはず。
了子:後者については賛成だね。本人たちが気にするほど、竜魔人って醜くないと思う。初見でびっくりはしても、意思疎通できる存在だと分かればあの姿のバランと一緒に生活できるよ、私なら。敵とさえ認識されなければ行動は共にできそう。
佳子:そりゃあ、人外好きの姉貴なら余裕綽々でしょうよ。ダンナにするならピッコロさんとか、『美女と野獣』は野獣のままがいいでしょうなんていってる嗜好の持ち主だから。
了子:あれ、野獣という姿の中に人間らしいところを見いだしたから愛情が生れたわけでしょう。ただのイケメンになったら絶対に魅力が半減すると思う。あれれ、文字数がいっぱいだよ。
佳子:それじゃあ、次の投稿にまだ続けますか。